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音のないコートで、立ち続ける理由

山九株式会社/デフバスケットボール日本代表 藤田彩音

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「声が聞こえない分、目で、気持ちでつながる」。

その言葉どおり、藤田さんは音のないコートで仲間と意思を交わしてきた。

山九株式会社に所属し、デフバスケットボール日本代表として国際大会の舞台に立つ。

仕事と競技を両立させながら積み重ねてきた日々の先に、最高の結果があった。

だが、彼女が大切にしているのは結果だけではない。

バスケットボールを続ける理由。
社会人として、そして一人のアスリートとして描く未来について、話を聞いた。

バスケットを「続けたい」という気持ちの行き先

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藤田さんがバスケットボールを始めたのは小学2年生。
友人に誘われ、地域のクラブチームに入ったのがきっかけだった。

中学では部活動として競技を続け、3年生で引退。
一区切りを迎えたそのタイミングで、「デフバスケットボール」という競技の存在を知る。

「音のない世界でバスケをしている人たちがいると聞いて、実際に見に行きました。その光景に、とても驚きました」

声や音に頼らず、視線や合図だけで成立しているプレー。
そこには、これまで自分が知っていたバスケットボールとは違う世界が広がっていた。

中学3年生のときに参加した九州デフバスケットボールフェスティバル。
そこで出会った人たちとの縁が、競技を続ける道をつくっていく。

「バスケットを続けたい、そして日本代表に入り、デフリンピックに出たい。
そのとき、初めてはっきりと目標ができました」

見て、考えて、伝える。音のない競技の奥深さ

デフバスケットボールのルールは、一般的なバスケットボールとほとんど変わらない。
大きな違いは、試合中に補聴器を外し、全員が同じ条件でプレーするという点だ。

「聴こえない分、目で情報を取らないといけない。それが一番難しいところです」

仲間の視線、相手の体の向き、わずかな動き。コート上では、すべてが判断材料になる。

「自分と相手、周りの動きを見ながら、次にどうするかを考える。考えて動くこと自体が、この競技の面白さだと思っています」

相手の守備を身体でブロックして味方に攻撃のためのスペースを作るスクリーン。

一般的なバスケットボールでは声で合図をしながら行うが、デフバスケでは声が使えないため、背中を軽く押す・引く、視線や手のサインで合図を送るなど、ひとつひとつの動作に「伝えよう」という意識を込めている。

「アイコンタクトやサイン、手話があるからこそ、チームとしてプレーできる。そこがデフバスケットボールの一番の魅力だと思います」

社会人として迎えた、新しいバスケットボールの時間

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高校時代、藤田さんはインターンシップで山九株式会社を訪れた。
仕事の内容だけでなく、職場の雰囲気や人との関わりに触れ、「ここで働きたい」と思うようになる。

現在は外注・購買グループに所属し、契約書類の作成や発送、管理業務を担当している。
最近では業務アプリを作ることができるkintoneの勉強にも取り組み、業務の幅を少しずつ広げている。

学生時代とは違い、仕事と競技の両立は簡単ではない。

「任された仕事は最後までやり遂げたいタイプなので、自分の中で業務の計画を立てながら、フレックスタイムを活用しています」

平日は他の社員とともに働いた後にジムでのトレーニング、休日は社会人バスケや福岡のチーム練習。
限られた時間の中で、どう使うかを常に考える日々が続いている。

夢に見た大舞台での活躍

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これまで多くの国際大会を戦ってきた藤田さん。

そんな藤田さんにとっても、幼いころから目標としてきた大会が、いよいよ現実の舞台として訪れた。

「これまで国際大会を何度か経験しましたが、やはり東京2025デフリンピックが一番記憶に残る大会となりました。」

「日本開催ということで、直接観戦してもらえる。それが、いつもの何倍もモチベーションにつながりました」

若手選手の台頭により、スターティングメンバーとしての起用ではなく、コートに立てる時間は限られていた。

それでも、与えられたチャンスに全力で応える。

「決勝のアメリカ戦では、自分に求められたポジションの役割を果たせたと思います。海外選手に押し負けない身体づくりをしてきて、本当に良かったと感じました」

女子バスケの奮闘は話題を集め、決勝の舞台となった大田区総合体育館は立ち見も出る満員御礼。12日間に及んだデフリンピックの総観客数は想定の3倍近くの28万という結果となった。

競技がつなぐ未来と、これからの選択

大会を通じて改めて実感したのは、バスケットボールという競技が人と人との距離を縮める力を持っているということである。

デフスポーツの知名度はやはりまだまだ低い。ただ確実に輪は広がっている。

「デフスポーツを多くの方に知ってもらえる、良い機会になったと思います。」

距離が、少しずつ縮まっていく。
その変化の一端を、競技を通して強く実感している。

その一方で、藤田さん自身は今後については、まだ答えを出していない。

「競技を続けたい気持ち、家庭を持ちたい気持ち、仕事を続けたい気持ちもあります。
女性アスリートが多くの人がぶつかる壁だと思います」

迷いながらも、自分と向き合い、考え続ける。
それもまた、これまで積み重ねてきた時間の延長線上にある。

応援してくださる皆さまへ

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東京2025デフリンピックのバスケットをはじめ、さまざまなデフスポーツへの温かい声援に心より感謝いたします。

本大会で多くの方に聴こえない聴こえにくい私たちのデフスポーツを知っていただくきっかけになったのではないかと思っています。

デフリンピックはパラリンピックよりも歴史は古いのですが、オリンピックの後にあるパラリンピックと違い、メディアの扱いも少なく知名度が低い状態でした。

しかし、東京2025デフリンピックが自国開催ということで、さまざまな活動をたくさんの方に知っていただく機会が増え、知名度が73.1%と大きく向上したことを大変うれしく思っています。


これからもさらに多くの方に広め、100%全ての方に知ってもらえるようになっていけたらいいなと思っています。

皆さんが知っているバスケットボールとルールは同じですが、声や音なきゲームの中に違う楽しみ方を見つけていただけたら幸いです。

相手の気持ちやサインをアイコンタクトだけで伝えあっていたりします。

また機会がありましたら是非デフスポーツを楽しんでほしいと思います。