PEOPLE
組織をつくり、案件を動かす - インドで見出した新しい可能性。
Sankyu India Pvt. Ltd. 東 邦也

「ここではプロジェクトが山のように湧いてくる」。
現在山九は、インド北部で大手メーカーの工場構内作業や倉庫運営を、西部では自動車部品の物流を担い、合計13の拠点で500人規模の現場が動いています。
そんな中、インドの工業団地で、東邦也は1500キロ以上離れた拠点を結ぶサプライチェーンを築き上げています。生産ラインを支える人材管理から、資材の在庫管理、倉庫の建設計画まで。
日本では役割が明確に分かれた業務が次々と舞い込む案件に向き合う日々。当初は海外志望が高くなかった彼が、インドで見出した新たな可能性とは----。
1.消極的だった海外から、インドのリーダーへ
「英語もできないのに、本当に大丈夫だろうか」。ある居酒屋で、上長から突然「インドに行くか?」と声をかけられたとき、私は驚きと不安でいっぱいでした。それまで11年間、東京や川崎の物流センターで目の前の案件に追われていた私にとって、大きな決断を迫られた瞬間でした。
当時の私は、仕事自体はうまくやれていると感じる一方で、「現状のままでいいのか」という漠然としたモヤモヤがありました。変化を求める気持ちと現状維持への安心感。その間で揺れていた時期だったように思います。そして行ったことのないインドと言う異国の地。
困惑した私は、その場で妻に電話をしました。すると、『行けばいいんじゃない?』と、想像以上に動じない妻。その言葉に、私は少し勇気をもらいました。実は、今の仕事についても妻は、『自分のやりがいが重要で、やめたいならやめたっていいじゃん、代わりに私が働くから。』とこれまでも言ってくれていたのです。「現状には満足していないけれど、転職する勇気もない。今こそチャンスなんじゃないか。」そう考えて、インドに行く決断を下しました。
そんな私ですが、そもそも山九に入社したのは、単純な"乗り物好き"が発端でした。子供の頃から操縦や機械に興味があり、宇宙飛行士やパイロット、航海士も目指しましたが、学力や視力、さらには船酔いなど、さまざまな理由で断念。行き着いた先が「人やモノを動かす物流」だったのです。
入社後は東京支店のお台場で重量物倉庫の管理を2年間担当しました。その後、首都圏DC支店という川崎にある大型物流センターに異動し、化粧品関連の物流管理を経験。さらに日用品メーカーの、オムツやシャンプーなど消費財の入出庫管理を任されるようになりました。そこで係長も務め、8年ほど倉庫現場での経験を積み重ねてきました。
着実に仕事を進めながらも、どこか物足りなさを感じていた日々。そんな中に飛び込んできたのがインドへの赴任の機会。英語ができないことへの不安もありましたが、「仕事に関する単語など、最低限の英語が話せれば、だんだんわかってくる。なんとかなるだろう。」そうして、新しい環境への第一歩が始まりました。
2.インドの現場で - 企画と組織づくりの面白さ
不安を抱えながら飛び込んだインドでしたが、5年の歳月が過ぎ、全く違う景色が見えています。現在私は、インド全土に広がる13の拠点を統括しています。インド北部から西部にかけて、3つの州で旗艦倉庫を含む5つの倉庫と8つの構内現場です。赴任当初は5つの拠点でしたが、現場の数は2倍以上となり、インドの新規案件の多さがわかると思います。
日本と大きく違うのは仕事の規模とスピード感です。赴任2年目に任されたユニ・チャーム工場の立ち上げプロジェクトは、その違いを痛感する機会となりました。新規の工場構内作業を立ち上げつつ、2つの外部倉庫を同時開設するという大仕事です。
ローカル企業との契約書整備、倉庫建設スケジュールの進捗管理、リスク管理まで、全て私が責任を持って進めていく必要がありました。「インドって建設がすごく遅れるんです。スケジュールも出てこない。それで『人を増やして間に合わせてほしい』とか現地の業者とやり取りをしなければならない。そんなことも初めてでした」。
最も大きな現場となるユニ・チャーム工場では、24時間体制で工場の稼働を支えています。私たちのミッションは、工場の生産を止めずに安定供給すること。そのために最も重要なのが、資材の供給管理です。
工場構内での在庫管理に加え、外部倉庫も運営しています。外部倉庫で保管した資材を工場構内に運び、約1週間分の在庫を保管。そこから生産ラインへと払い出していきます。

また、新規のラインが導入される際には、設備の据付や物流体制の提案も行います。資材の在庫が足りなくなれば生産ラインは止まってしまう。その責任の重さを常に意識しながら、必要な資材を、必要な量だけ、必要なタイミングで供給する体制を築いています。
お客様の工場の24時間稼働を支えるには、大規模な人材の確保と管理が欠かせません。
しかし、インドの地方都市では必要な人材を集めることは容易ではありません。そこで私たちは8つの派遣会社を統括して、各村を訪問し、仕事の紹介やPR活動を実施。
50名単位でホテルを確保して採用活動を展開することもあります。村長さんに協力をいただきながら、地域に根差した採用活動を進めています。
人材を確保できても、それだけでは現場は回りません。私たちが特に力を入れているのが、日本式の人材育成と現場管理です。各職場にはキーマンとなるマネージャーを配置し、作業標準書の整備からスキルマトリックスの作成まで、日本では当たり前の管理手法を丁寧に指導。「一番大事なのは一つ一つ褒めて、承認すること。そうやってコミュニケーションを取りながら、一つ一つ進めています」。
こうして私の1日は、生産・物流の管理から人材育成まで、様々な業務で溢れています。13の拠点それぞれで異なる課題が生まれ、新しいプロジェクトが立ち上がる。
現在インドではプロジェクトが山のように湧いてきて、私の仕事は尽きることがありません。大変ではありますが、今まで働いてきて一番やりがいと充実感を感じています。
3.アジアの新興国で描く、物流の未来
インドでの5年間は、私の中で多くのものを変えてくれました。最初は英語もままならず、海外で働くことに不安を抱えていた私が、今では「どの国でも行ける」と思えるようになっています。
物流や工場の現場を知り、手順を理解していれば、言葉の壁は工夫次第で乗り越えられる。そんな確信が、ここでの経験を通じて得られました。
お客様の要望を形にし、実現できる組織を作る。この仕事の面白さに、日々のめり込んでいっています。
ユニ・チャーム工場では、工場設計の段階から関わり、外部倉庫の建設場所の選定、建設業者との契約交渉、必要な人員規模の算出まで、すべてを一から組み立てる、いわば「企画屋」のような仕事をしています。自分で描いた構想を、育てたスタッフたちと共に実現していく。日本では味わえなかった醍醐味です。
「あまり深く考えすぎない」。インドで学んだ大切な教訓の一つです。
現在進行中の新工場プロジェクトでは、ラインの立ち上げ稼働に向け、北部からの部品調達の仕組みを作っています。
入念な準備は欠かせませんが、予期せぬ問題は必ず起きます。そんなとき、考えすぎて立ち止まるのではなく、まず動いて、必要なら修正する。その割り切りが、むしろ仕事の幅を広げてくれました。
次も海外で新しい挑戦がしたい。特にアジアの新興国では製造・物流需要が伸び続け、新しい工場が次々と建設されており、プロジェクトが驚くほどのスピードで生まれ続けています。
ここでは、組織全体の力を引き出し大規模プロジェクトを成功に導くノウハウを培いました。
単一の拠点に留まらず、複数の現場が連携する運営体制の可能性を実感した今、これまでの実績を土台に、物流ネットワークの整備、人材育成などの様々な課題に海外で挑戦していきたいと考えています。
常に変革を捉え、現場の力を最大限に活かす―その思いこそが、私の次なるステップへの原動力です。