次世代に向けた財務戦略の実現を目指して
2026年4月にCFOに就任した北見聡です。
2025年6月に入社しました。私はこれまで、投資銀行で産業・企業分析の知見と、M&Aやファイナンスにおける多くのディール経験を長年培ってきました。この専門性を基盤に、内部の立場から次世代に向けた財務戦略の実現を図り、持続的な成長と企業価値の向上を目指します。
専務執行役員 CFO
事業構造の認識
当社は、物流事業と機工事業が両輪となってグループ全体を牽引していることに特徴があります。近年、経済環境や競合状況などの変化に伴い、各事業の成長性や収益性に差が生じています。
物流事業は、多くの事業者がひしめく業界の特性上、価格競争が激化しており、相対的に収益性の低さが継続しています。一方で、資金回収は比較的早く進み、キャッシュ・フローは安定しています。これに対し機工事業は、当社の強みである技能・技術力や動員力を駆使して高い収益力を発揮していますが、資金回収サイトは比較的長く、債権の流動化を含めて資金管理に関する対応が必要です。
かつては両事業が相互に支え合い、成長できた時期もありましたが、そのバランスを維持するだけでは持続的な企業価値の向上は望めません。事業特性と課題を的確に把握し、競争力の可視化に向けて事業別ROICの導入を進め、並行して組織体制やシステム等の見直しも図っています。2026年度は「再成長企業」としての飛躍を実現すべく、改革の素地を固めていきます。
2025年度の振り返り
2025年度の業績は、売上高6,316億円、営業利益432億円、経常利益434億円、親会社株主に帰属する当期純利益は315億円となり、売上高と当期純利益は過去最高額を更新しました。
物流事業においては、中国事業の構造改革や、中東地域の収益性改善、単価改定が進んだものの、コスト上昇分を全て吸収するには至らず、依然としてやや厳しい状況が続いています。
機工事業においては、端境期ではあったものの一部事業の前倒し達成により売上ベースでは過去最高水準を達成し、営業利益も第2四半期に上方修正した業績予想を、さらに上回る結果となりました。
バランスシート面では、事業拡大に伴う総資産の積み上がりがある一方で、資本効率の改善を目的に200億円の自己株式取得を実施し、2025年度の純資産は3,070億円、自己資本比率は54.2%となりました。また、配当および自己株式取得を合わせた総還元性向は103.1%となっています。
キャッシュ・フローについては営業活動によるキャッシュ・フローが520億円(前年度比85億円増)となる一方、投資活動によるキャッシュ・フローは192億円の支出(同73億円の支出減少)となり、財務活動におけるキャッシュ・フローにおいて、株主還元および負債圧縮に充当しています。
2026年度の見通し
国内外の情勢を概観すると、中東問題等の地政学的リスクや資本市場における為替、金利等のボラティリティの高まり、さらにはAIの進展による経営管理の在り方の変化など、多くの業績変動要素が顕在化しています。このような事業環境変化に対応すべく、スリムで筋肉質な企業体質を目指し、施策を進めていきます。
物流事業は、次のステップに向けた足場固めの一年と位置付けています。まずはコスト増加をカバーする単価改定を着実に進めるとともに、構造改革を通じたコスト削減を行っていきます。国内では不採算事業の撤退等を通じた選択と集中、人材リソース最適化のためのリスキリングを進め、海外では中国における構造改革をさらに深化させるほか、東南アジア拠点でも固定費削減による収益改善を図ります。この結果、物流セグメントの売上高は2,965億円(前年度比0.4%増)、営業利益は113億円(同15.3%増)を見込んでいます。
機工事業は、メンテナンスにおいて大型定期修理工事のメジャー年のため工事量が増加する見通しです。それに伴う追加工事についても例年計画に比べてより精緻に業績に織り込み、利益率の改善にも取り組みます。設備工事は大型工事が端境期となるため、利益の確保に注力するとともに、来年度以降の大型案件開拓に努めていきます。この結果、機工セグメントの売上高は3,111億円(前年度比1.2%増)、営業利益は331億円(同6.8%増)を見込んでいます。
2026年度の財務戦略方針
ベースとなるROEに関し、過去10年を振り返ると、2018年度のROE14.6%をピークにして、一時は10%を下回る状況が続きました。収益力が横這いとなる一方で純資産が積み上がり、そのバランスが崩れたためと認識しています。こうした状況下で、2025年5月に公表した中期経営計画2026の見直しでは、自己株式取得をはじめとした株主還元と資本収益性を意識したコスト構造改革を通じ、ROE10%水準の維持に取り組んできました。
中期経営計画2026の最終年度にあたる2026年度は、ROE10%水準の維持からさらに一歩踏み込みます。2030年度に向けて再びROE14.6%を目指すとともに、その水準を維持し向上させていきます。その際、重要となるのはROEの追求だけではありません。自らの資本コストを認識し、エクイティスプレッドを改善することで企業価値の向上を図るほか、成長投資にも目を向けて株価判断の指標であるPER、PBRで適切に評価され得る企業への転換を目指します。
加えて、投資基準・撤退基準の設定を厳格化します。昨今の経済状況や金利情勢の動きが大きくなっている中で、事業環境の変化に応じて資本コストを見直しながら、緻密かつ大胆な経営戦略を進めていきます。2027年度に始まる次期中期経営計画では、より具体的な施策を定量的な数値をもって開示して、投資家をはじめとするステークホルダーの皆様とのコミュニケーションを深めていきます。
キャッシュ・アロケーションの考え方
事業計画の実現と並び、創出したキャッシュ・フローの配分は中長期的な企業価値にも大きな影響を与える重要事項です。
物流事業では、選択と集中、リスキリング、多重構造の解消という3つの戦略の実施に着手しています。また、不動産施設等のアセットライト化に取り組み、全体の収益性の改善に努めて、キャッシュ・フローの創出を図ります。
機工事業では、強みとする鉄鋼・化学業界向けの既存リソースを社会基盤インフラ等の新規事業領域へ展開します。既存事業の収益基盤を維持しながら、M&Aを含めたポートフォリオの転換を推進していきます。
成長を支えるM&A方針
外部環境の変化に対応しながらM&Aを通じた事業戦略を実行するには、当社を取り巻く市場規模をセグメントごとに把握することが必須です。各種統計データをもとにすると、メンテナンスでは3.0兆円、設備工事では15.8兆円、港湾国際では2.3兆円、3PL一般では23.6兆円、構内(鉄鋼化学構内)では3.7兆円の市場規模があると見積もっています。この市場規模に対して当社の売上高シェアは必ずしも高いものではなく、シェア拡大の余地は相応にあると考えています。この外部環境下において短・中・長期的な事業戦略を実現するための施策の一つがM&A戦略です。
こうした市場機会を的確に捉えるため、M&Aは既存事業の更新投資にとどまらず、業域拡大・新規事業領域への参入へと段階的に軸足を移していきます。実行体制としても、社内に分散していたM&Aの検討・実行機能を集約し、より機動的な体制を構築しました。先述した通り、投資基準・撤退基準を明確にした上で、成長投資を通じて企業価値の最大化に貢献できる資本配分を実現していきます。
資本政策と株主還元
収益構造の改革と成長投資を推進する中で、2025年度の配当は配当性向40%水準の方針に基づき、1株当たり246円(前年度232円)を実施しました。2026年度も本方針を踏まえ、株式分割に伴い実質増配となる水準を計画しています。自己株式取得に関しても、前年度と同様に200億円の実施を予定し、資本効率を重視した株主還元を継続します。
また、株式の流動性向上と投資家の裾野拡大を目指し、2026年度から株式流動化プロジェクトを始動させます。2026年10月1日を効力発生日として、1株を5株とする株式の分割を実施する予定です。今後は、個人投資家向けのIR活動の推進や従業員持株会の奨励金拡充など、多角的な施策を進めていきます。
資本市場との対話深化と情報発信
2026年4月に広報機能を統合したコーポレート・コミュニケーション部を発足させ、情報開示体制を強化しました。「投資家目線を意識した経営および開示」を推進するために、初めての試みであった社外取締役とのスモールミーティングや、中東での見学会を実施したほか、投資家の皆様に向けた事業紹介動画を公開しました。こうした機会を通じて、資本市場からの声を、経営および情報開示に反映するサイクルを整えていきます。
一方で、対話における課題も浮き彫りになっています。物流・機工それぞれの収益力を支えているのは、突き詰めれば現場が培ってきた技能・技術力という人的資本です。投資家の皆様からは、機工事業の成長戦略へ高い関心をいただいておりますが、この技能・技術力がどのように両事業の収益力につながっているかについての発信には、改善の余地があることを真摯に受け止めています。人材戦略が当社の企業価値創出にいかに結び付いているのか、対話を積み重ねていきます。
ステークホルダーの皆様へ
私が当社への参画を決意したのは、経営陣が覚悟を持って変革に向き合う姿勢に共感したからです。私が目指すのは、財務戦略を通じて、経営・現場・投資家の目線を合わせていくことです。成長への投資を加速させると同時に、資本コストを意識した経営を徹底することで、山九の企業価値を揺るぎないものへと引き上げていきます。ステークホルダーの皆様との建設的な対話を通じて、2030年度に向けて変革を遂げる山九の歩みにぜひご期待ください。
2026年8月31日